妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


目次へ / 4−16へ / 4−18へ
4−17 火山と溶岩

Side.フォス

 ガルドの紹介で他のドワーフと交流し、人狼達を斥候要員として使用して魔界の捜索を続けた結果、ようやく敵である魔神の居場所を突き止めた。遠目で見て間違い無い。故郷の妖精郷を消滅させた魔神だ。だが、ここで1つ勘違いをしていたことが判明する。敵である魔神は、炎の魔神ではなく、溶岩の魔神だった。全身が流動する溶岩でできている。人型をしているが、常時流動体の溶岩の塊。剣で戦うアヤカにとっては、最悪の相手だ。おおよそ、剣で切ってもダメージを与えられるとは思えない。

『アヤカ、ここは引くぞ。』
「(どいうこと? あれがフォスの敵じゃないの?)」
『そうなんだが・・・相手の能力を見誤っていた。』

 そして次元の門を開こうとした時だった。突如、周囲が炎の壁、もとい溶岩の壁に囲まれる。

「ふははは、見ツカッテないトでも思ッタのカ?」

 ちょっとくぐもったような声がした。5mほど離れた地面が灼熱化し、そこから溶岩の魔神が現れる。周囲を囲む溶岩の壁は高さ3mほど。位置的に、ケンジ以外の人狼達は、全て壁の外にいる。俺一人なら飛んで逃げることができそうだが、アヤカとケンジはそうはいかない。次元の門はそんなすぐに開くことはできないため、瞬時に離脱ということも難しそうだった。なにより、魔神が放出している赤とオレンジの粒子が、俺たちを逃がす気が無いことを物語っていた。


Side.ケンジ

 火山地帯の硫黄の臭いで鼻が利かない。そのためか、相手の行動に気付かず、まんまと溶岩の魔神に退路を断たれてしまった。俺たちを囲む溶岩の壁。その熱量と流動的な動きから、殴って壁を破壊というわけにはいかないだろう。いっしょに来ていた仲間達とは分断されている。現状では援護してもらうこともできない。壁の高さは3mぐらいか。俺一人なら飛び越えて脱出することも可能だ。アヤカは俺が投げてやれば出られるだろう。なにより、こんなところで蒸し焼きにされてたまるか。

「(おいフォス、アカヤを壁の外へ投げる。アヤカに伝えてくれ。)」
『・・・わかった。』

 敵が目の前にいるのに、作戦の会話などできない。俺はフォスに思考伝達を頼むと、やる気満々という雰囲気で、アカヤの盾になるように前に出た。フォスの思考伝達で、アヤカと動きのタイミングを合わせる。

「いくぜ!」


Side.アヤカ

 一瞬の判断の遅さから、退路を断たれるという事態に陥っていた。この溶岩の壁を、私の脚力では飛び越えるなんてできない。フォスは飛べていても、私をぶら下げることができるほどの力は無い。

『アヤカ。撤退だ。ケンジがお前を壁の向こうへ投げ飛ばす。タイミングを合わせてくれ。』
「(ちょっと待って。じゃあケンジはどうなるの?)」
『あいつは自力で飛び越えられるそうだ。』
「(わかった。)」

 こういう時にフォスの思考会話は便利だ。相手に手の内を読まれないですむ。アイコンタクトし、ケンジが組んだ両手に足を乗せ、強化された人狼の筋力が私を空中に投げ飛ばした。

「ははッ!!」

 魔神の嘲笑が聞こえた。壁を越えようとしたその時、急に溶岩の壁が伸びてきて、行く手を遮られた。空中で回避できない状態で、溶岩の壁に突っ込んでしまう。私は瞬時に加速した。音が消え、明るい溶岩の壁が少し暗くなる。ガルドが作ってくれた耐火ブーツを信じ、瞬間的に溶岩の壁に蹴りを入れ、足をひっこめる。足にはしっかりした手ごたえがあり、私はケンジの側に着地。加速を終わらせる。

『アヤカ!!』
「おい、・・・あれ?」

 遅れてフォスとケンジの叫びが聞こえた。

「(動きが読まれている?)」
『わからん。溶岩だけじゃないのかもな。』

 そして溶岩の壁は成長し、ドーム状に変化した。天井の頂点部分だけ、直径1mほどの穴が開いている。中の気温が一気に上昇した。

「(フォスは逃げて。このままじゃ蒸し焼きになっちゃう。)」
『だけど・・・』
「(フォスの小さな体だと、あっという間に体の水分がなくなるから!)」
『お前はどうするんだ?』
「(・・・やれるだけやってみる!)」

 私はグラヴィトンを抜いた。

「お」

 ケンジが何か言いかけたが、私は加速する。一気に間合いを詰め、魔神の腕を切り飛ばし、すぐに間合いを放し、加速を終わらせる。

「はははッ! 勇ましいコトダガ、刃物デ俺は倒せんぞ。」

 切断された腕がズルリと生える。

『やっぱりそうなるか・・・』

 フォスの絶望的なつぶやきが伝わってきた。

「(グラヴィトン、あなたは大丈夫?)」

無問題

 溶岩の壁を蹴ったブーツも問題なかった。装備は問題ないが、状況は最悪だった。剣で切ってもダメージを与えられない魔神。周囲は溶岩のドームで追われ、熱で徐々に水分を奪われている。

『野郎!』

 フォスが次元の門を開く魔法陣を展開する。すると、壁から溶岩弾が飛び出した。とっさにケンジが溶岩弾を叩き落す。毛皮と肉が焼ける臭いがする。

「オット、逃ガしはしない。」

 魔神が腕を振るうと、それを皮切りに壁のあちこちから溶岩弾が飛んでくる。私は低レベルの加速をすれば躱したり、剣で叩き落したりといったことは造作もない。ケンジは何発か受けているが、同じ所に連続して受けなければ、再生が追い付いてダメージは大したことなかった。問題はフォスだ。体格的に1発でも受けると致命傷になりかねない。私とケンジが背中合わせになり、フォスを間に入れることによって溶岩弾から守る。

「(フォス、今の内に!)」

 今、一番確実に脱出できそうなのは、フォスに次元の門を開いてもらうことだが、そうは簡単にいかなかった。

『二人とも、足元!』

 地面が瞬時に熱を放ち、溶岩と化す。私はフォスを掴むと、加速しながらまともな地面へ跳ぶ。その間も断続的に溶岩弾が飛んでくるので、回避したり叩き落したりする。耐火ブーツと加速で難を逃れた私に対し、ケンジは足に火傷を負いながらまともな地面へ転がり出た。

「ケンジ!」
「大丈夫だ。これぐらいすぐに治る。」

 実際に、炭化寸前だった足は、外側からぼろぼろと捲れ、内側から肉と毛皮が盛り上がってくる。

「ほう、カなりの再生能力を持ッテいるのカ。ならば!」

 溶岩の壁に囲まれた地面は、一斉に赤熱化し始めた。

目次へ / 4−16へ / 4−18へ