4−11 アヤカと重力の魔王 Side.???? 今までとは違う、白い光に満たされた広い空間に、吾輩は居た。 体を真っ二つにされ、死んだと思ったはずが、まさか武器の対価にと渡した角の中で意識を保つことができたとは。その角は剣の素材として使用されており、意識を取り戻した吾輩は、牢獄の中にいるような気分だった。 そんな中、その牢獄ともいえる剣の中に、心を通わせることができる者が現れた。 だがその者の魂は、吾輩よりもはるかに脆弱だった。 魔王と呼ばれていた吾輩は、その者の意識を乗っ取ることで、自身を解放しようと考えた。しかし、所詮、角だけでは力も出ない。幸いにして、剣を手にとっていた者は、夜、寝静まった時に体を支配することができた。その者は妖精眼の持ち主であった。これならば、潜んでいる者達を狩るのにもってこいである。 何度目かの狩りの後、あの妖精竜が現れた。当たれば一撃で消し飛ぶような小さな姿。だが、造作もないと思っていたのが油断だった。その非力な妖精竜は、一人で戦っていたのではなかったのだ。 「これで私の勝ちね。」 その女は吾輩の支配権をいきなり奪い返した。それまで支配権があったことが嘘のようにあっさりとだ。突然、女の力が吾輩を上回ったのだ。恐らく、妖精竜が与えた石のようなもので力を得たのだろう。 「で、あなたはどうすればいいのかしら?」 好きにするがいい、人間の女よ。・・・いや、もはや人間を逸脱した存在ではあるか。 「じゃあ、私の剣になってもらうわ。あなたの力を使わせなさい。」 よかろう。戦えるならむしろ本望。 「じゃあ、これからよろしくね。・・・で、あなたの名前は?」 吾輩は、・・・《グラヴィトン》と言う名であった。一族のものは《重力の魔王》と呼んでいたな。 「わかった。よろしくね、グラヴィトン。」 うむ。吾輩の力、存分に使うがいい。 Side.アヤカ グラヴィトンとの対話を終えた私は、意識の空間から現実に戻った。手にした剣の刀身には、金色の葉脈のような模様が走っていた。その模様は先端からゆっくりと消えていく。 『アヤカ!』 フォスが私の頭に着地する。 「(ありがとう、フォス。)」 『上手くいって良かったぜ。』 「(よくあんな作戦思いついたよね。)」 意識を乗っ取られている相手を正気に戻す。物理的戦闘能力皆無で、精神に干渉する特殊能力も持たないフォスが考えたのは、アヤカを強化覚醒させることだった。 『ああ、途中で気づいたんだ。一人で戦う必要は無いんだってな。』 「(・・・ありがとう。)」 『おう。』 「(・・・そうそう、これなんだけど。)」 アカヤは剣を目の高さに持ち上げる。 『そうだ、そいつはどうなった?』 「(うん、中にいた”重力の魔王”とかいう人・・・あ、魔神だっけ、と、対話した。)」 『対話できたのか?』 「(うん。名前は”グラヴィトン”って言ってた。これから、彼の力を自由に使っていいんだって。)」 『・・・マジか。魔王と対話だと? しかも、奴の力を使い放題?』 「(うん。)」 『・・・まったく、アヤカは大したやつだよ。』 「(・・・名前は”重力剣グラヴィトン”ってとこかな。)」 承知 剣から声がする。いや、正確には声というよりもフォスの半テレパシー会話に近い。刀身からはオレンジの粒子が放出されており、それは柄を持つアヤカの手にまとわりついていた。 Side.フォス 乗っ取られたアヤカと戦う前に、俺は必死に情報をかき集めた。非力な俺が勝利を得るには、知略で戦うしかないからだ。 まずはタイニーベヒモスの芯になっている角の持ち主について。これはガルドに聞くことで判明した。”重力の魔王”の異名を持つ魔神”グラヴィトン”。何年か前にガルドのもとを訪れ、武器を要求した。その対価に支払ったのが、グラヴィトンが持つ4本の角の1つだ。グラヴィトンは鋼の皮膚を持つ魔神で、重力を操る力を持っていた。 グラヴィトンが居城としている金属製の城は、岩の部族の攻撃を受けていた。岩の部族とは、大型の動物の姿をした魔神の一族で、その主食は土壌や鉱石だ。グラヴィトンの居城があった一帯は、その岩の部族が好む鉱脈が集中しているところだったのだ。グラヴィトンの配下の者は、元々数が少ない。時間をかけて波状攻撃してくる岩の部族に対し、少しずつ配下を減らされてしまう。そしてついに、グラヴィトン本人が打ち取られてしまった。グラヴィトンの命運はそこで尽きていたはずだった。 次に憑依状態を解除する手段。これにはかなり手こずった。一番いいのは、そいういった憑依能力を持つ者を探し出すことだ。まずは、魔界にいるあちこちの部族を尋ねた。何度も襲われそうになって、正直凹んだ。そうしてたどり着いたのが、影の部族と呼ばれる連中の所だった。骸骨や腐った死体、蠢く粘液など、大よそ会話できそうにない連中なのだが、運良くその魔王に会うことができた。 影の部族の魔王、死神剣士”チェルノボーグ”。切っ先の丸い両手剣を持ち、ボロボロのローブをまとった骸骨。憑依に対抗する手段を聞く対価は、以外にもこっちの半生を語ることだった。チェルノボーグ曰く、その半生はいかなるものであれ、極上の物語であり、心を満たしてくれるのだそうだ。俺はアヤカと出会ってからのことを語った。それを聞き終わったチェルノボーグは、満足そうに頷くと、次のような事を言った。 −−体無き死者は、生者の体で夢見ることを望む−− 結論から言うと、体無き死者とは、ゴーストのことだった。アヤカの住む世界には、肉体を持つ死者”ゾンビ”と、肉体を持たない死者”ゴースト”があちこちにいた。俺には粒子知覚をしなくても、ゾンビやゴーストの見分けがついた。その中で、人間に憑依しているゴーストを探し出した。そいつは高校生に憑依し、生前にできなかった学校生活を謳歌していた。驚くべきことに、その高校生は、ゴーストを自分に共生させていたのだ。一方的な憑依でなく、宿主の意識を保ったままの憑依。そのゴーストは、憑依について説明する対価として、そのゴーストの語りを聞くことを要求した。チェルノボーグと真逆の要求。ゴースト達は、自分がゆっくりと消滅に向かっていることに気付いてた。そして、誰かが自分のことを覚えていると、その消滅が限りなく先送りになるというのだ。俺はそのゴーストが語ったことを忘れないという約束をさせられた。ゴーストが憑依している高校生は、最初から共生状態だったわけではないという。最初は憑依されて体を乗っ取られていたが、ある時から抵抗することができるようになったという。そのきっかけは、ゴーストが自分の身の上を高校生に語ったところだったという。 俺は集めた情報から作戦を立案して実行。その結果、俺とアヤカは勝利したのだ。 |