妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


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4−7 小さき巨獣と????

”そいつはなー。ある魔神の角を芯にして、同じ剣を7本叩き合わせて作った特注品やねん。”
”なんで、ゆかに?”
”そいつなー。最初に予定してた重さとちごうて、なんでか重さが倍以上になったんやわー。そのせいで誰も持ち上げられんようになってしもてなー。名前は《小さき巨獣》(ルビ:タイニーベヒモス)っていうんやけどなー。”

・・・

「(まただ。まさか・・・?)」

 アヤカはその床にある剣を凝視した。いつもより意識を集中して粒子知覚をしてみる。すると、刀身からはほんのわずかに灰色の粒子が放出されていた。

「(これ、生きてる・・・の?)」


Side.????

ココハ、ドコダ?


・・・


ワレハ、マップタツニ、ナッテ、死ンダ、ハズ・・・


 思い出せるのは、左肩から入った剣が、反対の脇腹へ抜け、血をまき散らしながら倒れていく自分。それだけだった。今はどこか狭い場所に閉じ込められているように感じた。何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。


「(・・・て?)」


!!! ナニカ、キコエル!


ワレ、ノ、コエガ、キコエルカ?


「(・・・た?)」


 誰かが自分の存在に気付いてくれたのだろう。存在しない手を、延ばそうとしてみる。


ワレ、ヲ、テ・・・ニ・・・。



Side.アヤカ

・・・

 やはり落ちている剣が語り掛けているようだった。しかし、先ほどガルドは、角を芯に剣をたたき合わせて作ったと言っていた。芯になっている角に意識があるとでもいうのだろうか。

「(フォス、これどう思う?)」
『ん? アヤカは何か見えてるのか? 俺には普通の剣にしか見えないんだが。』
「(え?)」

 フォスには灰色の粒子が見えてない?

 ガルドがすごく重たくて持ち上げられないとか言ってたけど、私にはなんとなく持てるような気がした。手を延ばし、拾い上げる。・・・確かに重いけど、1kgぐらいかな。

”・・・嘘やろ。”

 ガルドが驚愕の表情をしている。

”わしかて滑車使わんと移動もさせられへんかったんやで。なんで持てるんや? お嬢はん、よっとして見た目よりも力持ちなんか?”

 私はその剣を軽く振ってみる。うん、さっきのレイピアよりは重いけど、短いから使いやすそうだ。

『・・・』
「(フォス?)」
『それ、ガルドに渡してみてくれ。ガルド、受け取ってみてくれ。』

 刀身を持ってガルドの方に柄を差し出した。そして私が手を放した瞬間、

ガンッ!!!

 切っ先が地面に落ちる。ガルドは腕の筋肉を盛り上げて持ち上げようとするが、顔を真っ赤にするほど頑張っても持ち上がらない。

ゴンッ!!!

 ガルドはあきらめて手を放した。地面に重量物が衝突する音。その音からは相当重いことがわかる。私はその剣を持ち上げた。難なく持ち上げる私を、ガルドが苦虫をかみつぶしたような表情で見ていた。

『ガルド、その剣の試し切りなんかできるところはないのか?』
”あー、それならこっちやで。”

 ガルドは私達を別の部屋に案内した。そこは鎧の部屋のようだ。様々な部位の防具が大量に置いてある。その部屋の真ん中には、金属製の太い柱があり、あちこちがへこんだ古い防具が着せてあった。

”こいつにぶつけてみー。”

 私は力を込めて柄を握ると、鎧の肩に向かって剣を振り下ろした。切っ先が鎧に当たるが、その曲面に滑ってしまう。振りぬいたところで、剣の重さで手首が傷んだ。

”なんや、お嬢はんは剣は素人かー。あんなー、もっと柔らかく持って、手首で力を逃がすんやー。振る時は踏み込んでバランスとるんやで。”
”おーきに。”

 私は言われたとおりに柄を握り直し、踏み込みを意識しながら、もう一度剣を振った。今度は当たっても当たらなくても、手首を返して重さを逃がすことを意識する。

ガボッ!!!

 肩の鎧がはじけ飛び、胸当ての部分が真っ二つになる。それは切り裂いたというよりも、爪で引き裂いたような断面をしていた。ふとガルドを見ると、彼は口を大きく開けて茫然としていた。そして

”・・・なんじゃこりゃー!!!!”

 ガルドの絶叫が洞窟に響き渡った。

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