妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


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4−5 魔界と鍛治小人

 アヤカは、近くを溶岩の川が流れる山岳地帯を歩いていた。フォスはアヤカの肩に留まっている。高い気温と地面から放射される熱。アヤカは汗が止まらなかった。

「(ここはどこなの?)」
『魔界だ。』
「(魔界?)」
『ああ。ここは魔神達が住む世界だ。』
「(魔神って、フォスの故郷を滅ぼしたっていう?)」
『そうだ。』
「(危険じゃないの?)」
『まあ、安全なわけないんだが。・・・ここに来た目的は2つある。情報収集と武器の獲得だ。』
「(情報収集?)」
『そうだ。ここには炎を操る魔神がかなりいるらしい。俺の敵でなくても、知っているやつぐらいるだろうと期待してる。』
「(武器って?)」
『この近くには鍛治小人(ドワーフ)が住んでる。ここの奴らは武器を作るのに溶岩を利用するんだ。そんな奴らの作る武器なら炎の魔神でも破壊できないだろうと思ってな。』 「(・・・私が使うんだよね? 私、武器なんて振り回したことないんだけど。)」 『まあ、武器はあればいい程度にしか考えてない。アヤカが使えそうなのがあるかどうかもわからんしな。』
「(・・・どうして?)」
『いや、俺は使えないし・・・な。』

・・・

「(?)」
『どうした?』

 アヤカはしきりに周囲を見回した。

「(なんか、呼ばれたような気が・・・。)」

 フォスも周囲を見回す。アヤカより高いレベルで粒子を知覚できるフォスにとっては、物陰に隠れている程度なら見破れる。しかし、誰かが潜んだり、監視しているような気配は無かった。

「(ところで、どこまで行けばいいの?)」
『もう少ししたら見えてくるはず・・・、お、あれだ。』

 岩山の間に洞窟が見えた。

『よし、じゃあ入口に瓶を置いて、蓋を開けてくれ。』

 アヤカは今回、リュックサックを担いでいた。その中から1リットルのペットボトルほどの大きさの瓶を取り出す。蓋を開けると甘い匂いが漂った。フォスは瓶の前に行くと、羽根であおいで、匂いを洞窟に送り込んだ。

「(なにこれ?)」
『まあ、見てろって。』

 ほどなくして洞窟の奥からだみ声が聞こえてきた。例によってアヤカは何を言ってるのか聞き取れない。ここから先はフォスの出番だった。


Side.ガルド

「んがっ!」

 疲労で床に突っ伏していたわしは、その匂いで瞬時に覚醒する。

「酒じゃとぅ!」

 金属と溶岩と溶鉱炉のせいで、自分の汗さえわからなくなっている鼻だが、酒の匂いだけは不思議とわかった。反射的に愛用のハンマーを引っ掴むと、わしは入口へ走る。そこには瓶の上で滞空するフェアリードラゴンがいた。珍しく緑色をしている。わしが見たことがあるのは茶色のやつだったが・・・。それよりも!

「何の用じゃ!」

 わしは瓶から目が離せなかった。じゅる。い、いかん、涎がでてきた。

『この辺で武器を作っている奴を探してるんだが、あんたかい?』

 お、こやつ、魔神と同じ会話ができるのか。やれやれ。しかし・・・いい匂いじゃのぅ。じゅる。おっと。

「その小さいなりで武器じゃと? 何かの冗談か?」

 普通なら警戒して間合いをとっておく所じゃが、わしの意に反して、足は前へずりずりと進んでいた。そう、あのいい匂いのする瓶の方へ。

『俺が使うんじゃねぇよ。』

 フェアリードラゴンが首を振ると、後ろの岩陰から出てくるものがあった。

「ほー、ヒューマンとは珍しい。武器を探しとるのはそいつか?」

 見たところヒューマンの女だった。しかし、腕はわしの半分ぐらいの太さしかない。足運びも素人だった。

「のう、嬢ちゃんや。どんなのを探しとるんだ?」

 その女は首を傾げた。ふむ、言葉が通じないようじゃな。魔神どもはこっちの言葉が何であれ読み取ってしまうのであまり意識したことは無いんじゃが。

【レコハワカルカノ?】

 別の言葉を試したが、女は首を傾げた。ふむ、自慢ではないが、わしは3つの言語を操れるのじゃ。武器職人であるわしは、いろんな種族と交易する機会があるからの。

”お嬢はん、これならわかるんけ?”

 女は首をこくこくと縦に振った。

”少し、わかる。”

 短い単語での返事だが、これなら会話になりそうじゃ。よしよし。

”フェアリードラゴンはん、その酒は武器の代金でっしゃろ?”
『そうだ。』
”奥の工房にぎょーさんあるわ。ゆっくり見とくんなはれ。”
”・・・うん、おーきに。”


Side.アヤカ

 酒の匂いに連れられて出てきたのは、身長1mぐらいで、ぼさぼさの髪、もじゃもじゃの髭、日に焼けた肌、そして汗臭い臭いを漂わせる小人だった。フォスがいうには、これが鍛治小人・・・もとい、ドワーフらしい。確か白雪姫に出てくる小人がドワーフなんだっけ?

 そのドワーフは、私に話しかけてきたが、何を言ってるかわからない。妖精郷でもそうだったけど、フォスは相手がどんな種族でも普通に会話できているようだった。この点は正直うらやましい。

 そのドワーフは、別の言語で声をかけてきた。今度はアラビア語っぽく聞こえるけど、さっぱりわからない。首をかしげていると、また別の言語で声をかけてきた。

”お嬢はん、これならわかるんけ?”

 ちょっとはわかる単語があった。文法は英語系に近い。発音は訛りの酷い田舎英語のようだった。

”少し、わかる。”

 ドワーフは顔をしわくちゃにしながら微笑んだ。これなら短い単語でコミュニケーションできそうだった。

”奥の工房にぎょーさんあるわ。ゆっくり見とくんなはれ。”
”・・・うん、おーきに。”

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