4−4 妖精騎士団と防衛線会議 Side.フォス 『・・・というわけだ。こっちには何も伝わってないのか?』 俺は故郷が崩壊したことを一通り説明した。騎士団長は腕組みしながら、額に皺を寄せた。半妖精(ハーフエルフ)だけで構成された、妖精郷の最強戦力である妖精騎士団。そのリーダーたる騎士団長は、妖精王国が成立した際、妖精王につき従っていた騎士の一人だった。人間相手だけでなく、魔神や妖精郷に攻め入ってくる様々な外的と戦った経歴を持っている。 「話は聞いている。しかし、ここしばらく活動している痕跡は途絶えているのだ。」 『そうか。』 「ただ、警戒は厳にしている。お前たちが現れてすぐに騎士の一人が現れただろう?」 『それはそうだな。』 「・・・お前の提案は受けよう。お前の持つ次元の門の力は、来るべき時のために必要だ。実際に、お前の妖精郷にいた妖精騎士が殺されているのだ。他人事だとは思っておらんよ。」 『ああ、それは助かる。』 俺は騎士団長と炎の魔神への対策について、細々なことまで話し合った。ここにはすぐに招集に応じた、騎士団長を含めた7人の妖精騎士が集っていた。その愛馬たるモノセロス達は、乗り手毎に様々な個性があった。騎士団長のモノセロスは、他よりもあきらかに体格が大きく、首や足に傷跡が残っていた。細身で俊敏そうな奴、角が他よりも長い奴、銀の毛並みに紫の波紋が広がる奴と、どれも個性的だった。俺が騎士団長と話しをしている横で、他の妖精騎士達も話を聞いていたのだが、彼らは心ここにあらずだった。それは彼らにとって、ありえない光景がそこにあったからだ。 Side.妖精騎士団長 妖精騎士の相棒たるモノセロスは、とにかく気性の荒い生き物だった。その警戒心は同族のモノセロス相手にも解かれない。モノセロスは妖精騎士の制御には素直に従うため、妖精騎士団が邂逅する時は、全員騎乗したままであるのが普通だった。ところが、妖精竜の呼びかけで集まった妖精騎士達は、その妖精竜を中心に円形に座っていた。そして離れたところにいる7頭のモノセロスはというと、大人しく半円形に立ち尽くしていた。その中心には妖精竜が連れてきた人間の乙女がいた。その人間の乙女は、順番にモノセロスの鼻面を撫でている。妖精騎士にしか従わないはずのモノセロスが、しかも7頭が7頭とも、人間の乙女の前で大人しくなっている。ここにいる妖精騎士のほとんどが、その光景に驚愕した後、怒りに身を震わせていた。何人かは敵意を隠そうともせず、人間の乙女を睨んでいた。当然、私と妖精竜の会話など聞いていない。かくいう私も、愛馬が会ったこともない人間の乙女に鼻面を撫でられているのか、不思議を通り越して腹が立っていた。これが醜い嫉妬の感情だということはわかっている。騎士団長として、妖精王国の守護者として、私は妖精竜との話し合いに集中した。 『ところで、今の話とは関係ないことなんだが・・・。』 妖精竜は人間の乙女の方をうかがうように首を動かすと、言葉尻を濁した。 「なんだね?」 『ここのモノセロスってのは、みんな、ああなのか? 俺のいた妖精郷だと、前を横切っただけでも蹴飛ばすような気性の奴らばかりだったんだが。』 私を含め、妖精騎士全員が人間の乙女を注視していた。 「・・・わからぬ。こんなことは初めてだ。・・・もしや、あの乙女は、我らと同じ妖精の血を引くものか?」 『・・・まあ妖精眼(グリムサイト)を持ってるから、祖先には妖精の血が混じっていることは確かだろうが・・・。父親は誰かわからない。母親は死んだが、ただの人間族だったみたいだ。』 「・・・そうか。」 妖精竜が首をこちらに向ける。 『それでだ、あんたは妖精王と話したこともあるんだろ?』 「ああ。」 妖精王「ウィル・オ・ベイロン」。半妖精である我々をまとめ上げ、妖精騎士団を作り、幾度も妖精郷を救った英雄だ。 『妖精王の前だと、モノセロス達は、あんな風に大人しいのか?』 私はベイロン様と一緒に戦っていた日々を思い出した。そういえば一度、私の愛馬にベイロン様が蹴られていたことがあったな。その後、ヘイロン様の愛馬と、私の愛馬が喧嘩をしてしまい、止めるのに半日近くかかったことを思い出した。 「いや、そんなことは無かった。ベイロン様の前でも、それぞれのモノセロスの気性の荒さは収まることはなかった。」 『そうか。・・・じゃあ、妖精女王の前でならどうだ?』 妖精女王「ティル・ティ・ターニャ」。彼女自身も妖精騎士であり、夫であるベイロン様の傍らで戦っていた。戦況を先読みする才能を持ち、ベイロン様の異業を支えた人物だ。 「ターニャ様か・・・。あんな風にモノセロスと対話しているような所は見たことが・・・。」 『・・・どうした?』 ターニャ様が自身の愛馬とベイロン様の愛馬の両方を連れているのを、1回だけ見たことがあった。あの時は連戦で疲労が限界に達しており、ゆっくり見ていたわけでなないのだが、今から思えば、あの時の2頭は大人しくターニャ様に従っていたような気がする。 『・・・あったんだな?』 「ああ、私が覚えているのは、ターニャ様が自分の愛馬とベイロン様の愛馬を一人で連れていたことがあるぐらいなのだが・・・。は、まさか?!」 『・・・あんたも思い当たるよな。』 あの人間の乙女は、ターニャ様と同じだとでもいうのか? |