妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


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4−3 妖精騎士と妖精馬

Side.妖精騎士

 我が愛馬たるモノセロスが、妖精郷への侵入者を感知した。風に声を載せて他の妖精騎士と連絡を取り合うが、一番近くにいるのが自分のようだ。愛馬を駆り、枝から枝へ疾風のように駆け巡る。モノセロス持つ、自分と騎手の重さを無くす特殊能力により、細い枝葉ですら大地のごとき足場として駆けてゆくことができるのだ。

 妖精郷への侵入者は人間の乙女だった。しかも、この妖精郷では珍しい妖精竜を連れている。この侵入者は、妖精郷の一角にいきなり出現していた。妖精の輪の魔法でも使ったのだろうか。人間にも妖精竜にも、妖精の輪の魔法は使えないはずだ。だから気を引き締めなくてはならない。私の感情が伝わったのか、愛馬が鼻息を荒くした。敵とみれば角で突き殺し、蹄で踏み砕く。不用意に触れようものなら、味方であるはずの妖精騎士ですら殺しかねない荒々しさを持つが、私の制御には従順だった。

 人間の乙女は言葉が通じないようだった。向こうは妖精竜が会話の相手となった。どうやら主導権は妖精竜の方らしい。聞けば警告と提案に来たという。妖精王に会いたいという話だったが、王は今、眠りについているため、会わせるわけにはいかない。

「ちょっと待っていろ。」

 妖精竜にそう伝えると、風に声を載せて騎士団長と連絡を取った。しばしの沈黙の後、騎士団長は会ってみようという話になった。

「?」

 ふと、愛馬の怒気が収まっていくのを感じた。余所者を前にして、愛馬が臨戦態勢を解いたことなど、今まで一度もなかった。味方ですら攻撃を仕掛けかねない気性の激しさを持つ愛馬が、こんな状況で大人しくなるなど、普通ではない。愛馬は人間の乙女と向き合っていた。落ち着いている愛馬に対し、私は戦慄を覚えていた。妖精竜に似た気配を持つ人間の乙女。お前はいったい何者なのだ?


Side.フォス

 妖精騎士が長と連絡を取っている時、ふとモノセロスの攻撃性が薄れていくのに気づいた。妖精騎士が止めていなければ、今すぐにでも攻撃しそうな雰囲気だったのに、何があったのだろうか?
 モノセロスはアヤカと向かいあっていた。すっかり大人しくなるモノセロス。アヤカはモノセロスにゆっくりと近づいた。

『アヤカ?』

 アヤカは、モノセロスの鼻面に手を延ばした。

『ダメだ、アヤカ!! 触れるな!!!』
「離れよ、人間!!!」

 妖精騎士から焦ったようなセリフが飛ぶ。俺の知る限り、相棒たる妖精騎士以外に対して、大人しくなったモノセロスは見たことがない。次の瞬間にも、アヤカの胸に角が突き刺さるかもしれないのだ。
 ・・・だが、俺と妖精騎士の心配をよそに、アヤカはモノセロスの鼻面を優しく撫でていた。そしてモノセロスはというと、瞳を閉じ、大人しく撫でられていた。

『な?!』
「馬鹿な?!」

 少なくと、俺と妖精騎士の意見は一致していた。

『どうなってんだ? ・・・? ・・・!』

 確証はない。前例もない。だが、俺の思考は奇妙な所にたどり着いていた。

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