4−2 次元の門と妖精王国 大学生活が始まったアヤカだが、高校のようにガチガチの勉強漬けの生活はしないことにした。授業の選択を厳選した結果、1週間の間に午前と午後に1回ずつ、授業の無い日があることになった。その時間を利用して、フォスはアヤカをあちこちに連れていくことにした。パワースポットに何度か行くことで、竜の雫による消耗を回避できるようになったため、アヤカの強化をしながら、消耗によって先送りにしていた次元探査を再開したのだ。次元の門を開くためには、その行先である次元世界を知覚できる必要がある。実際に、2年近い時間をかけて、フォスはようやく妖精王国の場所を突き止めたのだった。 昼過ぎ。学食で昼食をとったアヤカは、大学を出た。今日は午後の授業が無い日だ。アヤカはフォスと待ち合わせしていた公園に入った。ここは公園というには面積が広く、フォスに言わせると原生林のようなところが一部残っているらしい。そのため、パワースポットに行くまで、フォスはこの森で消耗を抑えるようにしていた。ここは木々のおかげで周囲から見えにくい所であり、次元の門を開くのにうってつけの場所でもあった。 フォスは意識を集中し、妖精王国の位置を確認。眼前に直径2mほどの大きさの魔法陣を展開した。魔法陣といっても、幾何学模様やどこぞの古代言語の文字が並んでいたりするわけではない。円形ではあるが、その中は木の枝や葉、水の流れが図式化されたような模様が組み合わさってできていた。この複雑さは、妖精王国への門を開くための魔法陣なのだ。 『さあ、行こうか。』 フォスとアヤカは次元の門をくぐった。 「(・・・凄い、これが妖精郷?)」 アヤカの前に広がっているのは、うっそうと生い茂った森だった。だが、生えているのは、直径10m以上はありそうな超巨大樹ばかりだった。フォスがアヤカの肩から飛び立った。アヤカは最近、ちょっと集中するだけで粒子を知覚できるようになっていた。パワースポットほどではないが、どこまでいってもかなりの粒子が放出されていた。そんな中を、フォスはひらひらと飛び回っていた。 「(フォス、嬉しそう。)」 『ん? まあな。』 「(それで、これからどうするの?)」 『ああ。堂々と次元の門を開いたからな。もうすぐ迎えが来るはずだ。』 ガッ! 何かが木にぶつかったような音がした。しかも上の方から。木葉が1枚、落ちてくる。 見上げた視線の先には、アヤカの指ほどのの太さの枝の上に立っている一組の人馬だった。馬の体毛は銀色。額に螺旋状の角がある。馬には見られない顎鬚があり、蹄は1つではなく2つに割れていた。またがっているのは木のようにも見える鎧をまとい、茶色の髪に白い肌の男だった。顔の左右の髪からは、とがった耳のようなものが見える。背には弓と矢筒があり、腰には剣のようなものを下げていた。 「○○○、●○▽!」 馬上の男が叫ぶ。アヤカには茶色と青の粒子が見えた。言葉はわからないが、警戒され、若干の敵意を持たれているのはわかった。角を持つ馬は、鼻息が荒く、赤と青の粒子を大量に放射していた。怒りと敵意。男が手綱を引いて止めているようだが、それがなければ突撃してきそうな雰囲気だった。 フォスはアヤカの右肩に着地すると、尻尾の先端をアヤカの耳にかけた。 『会話は俺がする。できるだけ言ってることを通訳してやるが、よく粒子を見てれば、なんとなく言ってることが理解できるようになるだろう。ちゃんと観察しとけよ。』 男が手綱を操作すると、枝から馬が飛び降りた。その落下や着地は、まるで体重というものが無いかのようにふわりとしたものだった。蹄がめり込むような重量感を予測していたアヤカは、目の前の人馬は幻覚じゃないだろうかとも思い始めた。 Side.フォス 「妖精竜に、人間だと!」 俺たちの前に現れたのは、半妖精の男と妖精馬モノセロスだった。俺が知る限り、こいつは妖精騎士だ。丈夫な弓と銀の剣。纏う鎧は鋼に匹敵する強度を持つ樫の鎧。妖精魔法も使いこなし、妖精馬モノセロスの恐るべき機動力と戦闘能力を操る、妖精郷でも随一の戦士だ。 まあ、歓迎されないのは予想していた。言語としてはわからないが、俺には半妖精の男が何を言っているのかは理解できる。思考伝達のために、尻尾をアヤカの耳に絡める。 『いきなりこの谷に入ってきたことは謝る。見てのとおり小さな妖精竜と人間族の小娘だ。武器も持っちゃいない。争いに来たわけじゃないことぐらい、わかるだろ?』 「ふむ。だが何の用だ?」 『警告と提案だ。できれば妖精王に会いたいんだが、ダメならあんたらの長でもいい。』 「警告とは?」 『俺の生まれた妖精郷が、炎の魔神によって破壊された。ここも狙われるかもしれん。』 「提案とは?」 『炎の魔神を倒すための力を求めている。力を貸してもらえるかどうかを聞きたい。対価はある。』 「・・・その人間の娘・・・、ただの人間ではないな。どちらかというと・・・我ら・・・いやお前に近いように感じる。」 『やっぱりわかるのか。流石、妖精騎士だな。』 Side.アヤカ 角のある馬に乗った男とフォスが会話を始めた。普段の会話から、フォスが何を言っているのかはちゃんと理解できる。男が何を言っているかは、なんとなくわかる程度で、細かい意味までは理解できなかった。 男とフォスの会話よりも、アヤカは角のある馬の方が気になっていた。どう見てもユニコーンだ。確か、乙女の前では大人しくなると記憶にあるのだが、目も前のユニコーンは盛んに敵意を表す粒子を放射していた。 「(・・・綺麗。)」 その銀の体毛と力がみなぎっているような体躯。アヤカは超一流の彫刻を見ているような気分になっていた。綺麗な色の鳥や蝶などは本で見て知っていたが、目も前にいるユニコーンは、神々しいまでの美しさを持つ生き物だった。 |