4−1 進路と分岐 高校3年間では、試験の点数で学年1位を独走し無事に卒業。そして高校と同じく、大学も寮が完備されているところへ進む。ただし、高校と違い、大学ではその先の就職まで見据える必要がある。・・・と考えるのがあたりまえだ。アヤカとフォスは、アヤカの大学受験にあたり、相談をしていた。元々、フォスはアヤカを炎の魔神を倒すために利用するつもりだ。その方針は今も変わっていない。ただ、今のアヤカだけで炎の魔神を倒すことはできないだろう。アヤカの能力がもっと伸びるか、それとも別の手段を考える必要がある。 選択肢の1つとしては、仲間を増やすことがあった。炎の魔神を倒すための戦力は、多い方がいいのは確かだ。だが、問題はそんな仲間を探し出せる可能性が、非常に低いということだった。 アヤカの能力を伸ばすことは、竜の雫を与え続けることで、時間をかければ達成できるだろう。ただし、人間族の体が、竜の雫の投与に耐え続けられる保証はない。急激な伸びは自己破壊を生む。実際に、加速や粒子吸収で、アヤカは何度か酷い目にあっている。 なんだかんだで、フォスはアヤカとの生活に居心地の良さを感じていた。この環境を変化させてまで、炎の魔神を倒す価値があるのかどうか。目的意識にブレが生じてきており、自分が何のためにここにいるのか、自分で自分を疑ってもいた。 『なあ、アヤカ。連れていきたいとこがあるんだが?』 「(どこに?)」 『妖精王国。』 「(妖精王国?)」 『うん。』 「(妖精王国?)」 『うん。』 「(妖精王国?)」 『うん。なんで3回も聞くんだ?』 「(なんか現実感無くて。)」 『おいおい、じゃあ俺はタダの幻なのか?』 「(そういうわけじゃないんだけど・・・)」 幼い頃、アヤカはあちこちに怪物や妖怪のようなものが跋扈しているのを目撃していた 。しかし、フォスが現れてからしばらく、そういったものをほとんど見なくなっていた。アヤカは勉強に必死ですっかり忘れていたが、この世界に住んでいるのは人間だけではないのだ。繁華街にあふれている人々に交じって、異形の者達も行き来しているのだ。普通の人たちにはそれが見えないだけで。 「(妖精王国ってどこにあるの?)」 『俺も正確な場所は知らなかったんだが、ようやく突き止めた。』 フォスはアヤカに説明した。次元の狭間に浮かぶ、数々の妖精郷のことを。その中で、妖精王と呼ばれる人物と、それに従う妖精騎士団の存在、そして人間と妖精の確執を。 「(そこに助力を求めに行くってこと?)」 『ああ。あの炎の魔神が妖精郷を破壊して回っているなら、いずれ妖精王国にたどり着くだろう。妖精騎士団の力が借りられれば、倒すことが容易かもしれない。』 「(・・・)」 『どうした?』 「(・・・それじゃ、私はもういらないってこと?)」 『ちょ、ちょ、ちょっと待て。考えてることが飛躍しすぎだ。』 アヤカは珍しくふくれっ面だった。 『正直なところ、最初はアヤカに炎の魔神を退治してほしかった。』 「(・・・それで?)」 アヤカはまだ怒っていた。 『アヤカの成長具合は驚愕するところもあったが、何もアヤカ一人に全て背負ってもらわなくてもいいんじゃないかと思ったんだ。』 「(・・・)」 『相手は妖精郷を壊せるほどの力を持った魔神だ。だから、もっと協力者がいてもいいんじゃないかと思ったわけだ。アヤカだって、クラスメイトとの交流で助かっている部分があるだろ? それと同じだよ。』 実際、アヤカは一人で炎の魔神と対決しないといけないと考えていた。そのために、勉強以外にも粒子の読み方や加速の使い方を、工夫して強化することを考え、訓練もしていた。いろいろと足りないものがあるはずで、それを探したいとも思っていた。 『そこでだ。これからの方針を決めたい。』 「(方針?)」 『ああ。まずアヤカは、予定どおり大学に入学する。高校と同じように寮のあるところがいいんだろ?』 「(まあ、そうだけど。)」 『大学って確か、自分でどの授業を受けられるか選べるんだろ?』 「(そうね。)」 『ということはだ、勉強やバイト以外の時間ももっと作れるということだよな?』 「(・・・まあね。)」 『その時間を使って、いろんな可能性を試してみたいんだ。』 「(・・・その1つが妖精王国ってこと?)」 『そうだ。』 そしてアヤカは予定どおり、寮が完備されている大学に進学した。高校の進路指導ではもっと上のランクの学校が狙えるといわれていたのだが、それは断った。学年1位をキープしている才女。そして将来を見据えている言動を、進路指導の教師が曲げることはできなかった。 |