妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


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3−13 旅行と回復

 夏休み。アヤカ、委員長、双子の4人は電車の中にいた。移動に時間がかかるので、電車の中でお昼にすることにした。どうせならと、アヤカは早起きして弁当を作った。といっても、電車の中で食べるのだから、サンドイッチをメインにする。食材は近くのスーパーで特売を狙ったので、思った以上に安く、沢山確保できた。さらにファミレスで食材の余りを分けてもらい、寮の厨房を借りて作った。

「あ、サンドイッチなんだー。」
「なんか、多くなーい?」
「うん、なんか食材が余るのがもったいないと思ったら、いっぱい作っちゃって。よかったらどうぞ。」
「おー。」
「あ、わたしもー。」
「よっかたら、委員長もどう?」
「ありがと。じゃあこれお返し。」

 委員長は自分の弁当からから揚げをアヤカの弁当に移す。ちなみに、双子はコンビニで買い、委員長は弁当を作ってきたらしい。和気あいあいと弁当を交換する4人の頭の上、すなわち荷物置きのネットの上で、フォスは周囲を警戒していた。

「(・・・どう。)」
『大丈夫だ。変な粒子を放っている奴は見当たらない。顔も学校で見た奴がほとんどだな。』

 アヤカ達の乗っている車両は妙に混んでいた。ちなみに、その車両以外はガラガラである。図書室での会話を聞いていたのだろう。あわよくばという魂胆で、偶然を装ってついてきている連中がいた。途中、その連中に委員長がひと睨みし、釘を刺していた。アヤカはわかっていたが、学校と同じように無視することにした。この事態に気付いていないのは双子だけであった。予想されていた事態だが、フォスはアヤカとは違った発想をしていた。

『奴らを緩衝地帯に使おう。』
「(緩衝地帯?)」
『学校や寮には、周囲から守る壁やあるだろう? 奴らにそれと同じ役割をしてもらう。』
「(というと?)」
『わざとついてこさせる。前みたいにアヤカにちょっかいを出そうとする奴らがいたら、まずこいつらにぶち当たってもらおうというわけだ。』
「(・・・どうやって?)」
『それは俺に任せておけ。アヤカは何もしなくていい。』

 アヤカにはフォスがどんな対処をするのか、想像がつかなかった。フォスとの思考会話は、言葉以外にも抽象的な概念や感情も伝わる。フォスからは自信に満ちた感情が伝わってくる。アヤカはこれは任せても大丈夫だと判断した。

 特にトラブルもなく、パワースポットだと紹介されているところに到着する。そこは四方を生い茂った森に囲まれ、小さな滝のあるところだった。滝といっても3mほどしかなく、有名どころと比べて水量も多くないので、ここに来る観光客はほとんどいないような所だった。

『うほー。』

 フォスは飛び回っていた。

『ひゃっほーい。』

 宙がえりするフォス。あまりにも違う雰囲気のフォスに対し、アヤカはドン引きして何もコメントできなかった。

「なんか地味ー。」
「しょぼー。」
「えっと、もう1回、スマホ見せて。本当にここだっけ?」

 委員長と双子からすると、期待外れもいいところだった。

「(・・・フォス?)」
『どうした、アヤカ? あ、そうか。意識を波の無い水面のようにしろ。それで心を落ち着いたら、周囲の粒子を見てみるんだ。』
「(・・・わかった。)」

 アヤカは目を閉じると、心を落ち着かせる。そして普段、粒子を見るように意識しながら目を開いた。

「(!!!)」

 そこは金色の粒子に満ちていた。フォスは飛んでいるというよりも、粒子の海を泳いでいるような動きをしていた。放出されている量は、前の植物園の比ではなかった。

「(凄い・・・。こんなに満ちてるの?)」
『まあ、人間族にはわからんわな。くっそー、こんな所があるならもっと早くくればよかったぜ。』

 悪態めいた口調だが、アヤカにはフォスが本当に喜んでいることがわかる。普段じっとしており、飛ぶにしてもすぐに着地するようなフォスだったが、今はずっと飛び続けている。他の3人をよそに、アヤカは来てよかったと思った。

「(・・・。)」

 アヤカは思いついたことを実行してみることにした。先ほどと同じように心を落ち着かせると、粒子を吸い込むことをイメージする。無意識に滝の方に手を伸ばすと、周囲に満ちていた金色の粒子が、アヤカの手に集まるような流れを作った。アヤカは、手から清流のようなさわやかな、それでいて力が湧き出るような感覚が伝わってくる。

「(・・・なんかできちゃったんだけど・・・。)」
『・・・やっぱりできるようになったか。』
「(フォス?)」
『ああ、俺と同じように、周囲の大地や植物から力を分けてもらえるようになったんだ。』

 アヤカは、ここまでの電車や徒歩による疲労感が無くなっていることに気付いた。むしろ、元気が有り余っている。

「(・・・ねぇ、これって人が放出している粒子も吸収できたりしない?)」
『・・・あー、できると思うが・・・。まあ、試してみろよ。何事も経験だしな。』
「(?)」

 帰りの電車の中。上機嫌なアヤカと、そうでない3人の表情は対照的だった。

「アヤカちゃん、あの場所気に入った? ずいぶん機嫌いいみたいだけど。」
「そ、そうね。空気綺麗だったし。」
「まあ、空気は綺麗だったよね。でもあれじゃ観光スポットとしては人気でないのはわかるわ。」
「うん、でも3人とも、今日はありがとう。」
「あー、アヤカちゃんて、朝よりも元気になってないー?」
「ほんとだー。パワースポット効果ー?」
「そ、そうかな(いや、そうなんだけど)」

 双子は気分が移ろいやすいが、その分切り替えも早い。滝の残念さで緑と青の粒子を放っていた双子だが、アヤカが礼を言うと、すぐに黄色とオレンジの粒子に変化する。ここでアヤカは、双子が放出する粒子を吸収してみることにした。

「(!!!!) ごめん、ちょっとお手洗いに。」

 アヤカは3人の返事も聞かず、電車に備え付けのトイレに駆け込んだ。アヤカは、人からの粒子を吸収した瞬間に、腐った雑巾を口にねじ込まれたような感覚を覚え、強烈な吐き気に見舞われていた。あまりの苦しさに涙が出る。

『大丈夫か?』

 遅れてフォスがやってくる。

「(・・・何これ?)」
『やっぱりダメか。』
「(フォスは知ってたの?)」
『いいや。人間族が放出している粒子を取り込んだことはないよ。なんか嫌な感じがしたんで、今までやったこと無いだけなんだが。』

 委員長が様子を見に来た。

「大丈夫?」
「ごめんなさい。電車酔いみたい。」

 人から粒子を吸収するのは二度とやらないと、アヤカは心に誓った。

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