妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


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3−11 作戦と決着

「よう、お嬢さん、迷子になったのかな?」
「暇ならお茶しない?」

 アヤカは裏路地で8人ほどの男達に囲まれていた。状況的には、ついてくる男達を振り切ろうとしたら、挟み撃ちにあってしまったというものだ。だが、これはアヤカの予定どおりだった。上からフォスが男達の動きをアヤカに伝え、アヤカは挟み撃ちになるよう逆誘導した。アヤカは、あまりにも簡単に事が運んだことに、思わずニヤリとしてしまった。

「おっと、その顔は俺たちと付き合ってOKってことかー?」

 下卑た笑みを浮かべた男が近づいてくる。

『アヤカ、全力で”加速”はやめておけよ。』
「(わかってる。)」

 ファミレスで初めて加速して以降、アヤカは暇を見つけては訓練をしていた。一度は全力を出そうと思い、30秒ほど加速してみた。ところが、15秒を超えたあたりで突然終了。全身が筋肉痛のような状態となり、異常な吐き気に見舞われた。そこから3時間ほどは行動不能に近い状態だった。これを教訓に、数秒で最大の効果を得られるにはどうしたらいいかに、訓練方法をシフトしたのだ。

『来たぞ。』

 フォスの合図でアヤカは加速を開始する。夕暮れの繁華街。その雑音が消え、周囲がモノトーンになる。その中、アヤカは前にいる4人の男の脇を通り抜けた。裏路地から出るところで解除。音と色が戻る中、アヤカはゆっくりと人通りの多い道に出た。

「?」
「!」
「あれ?」

 アヤカが消えたことに混乱する男達。最初に混乱から立ち直ったのは、アヤカの背後にいた一人だった。

「おいおい・・・なんだよ、今の?」

 いつの間にか包囲網を抜けられている違和感を不信に思うべきだった。だが男達はそんな違和感よりも追い詰めた獲物を逃がさない方に意識があった。

「待てよ、嬢ちゃん!」

 一人が駆け出し、他もそれに続く。先頭の男がアヤカの肩を掴む。アヤカは、それまでの平静とは一変して声を張り上げた。

「やめてください!! あ、お巡りさん、助けて!!」

 そこには中年の制服警官がいた。アヤカの声に周囲の視線が集中する。固まってしまう男達をよそに、アヤカは警官に駆け寄る。警官はアヤカをかばうように前へ出ると怒鳴った。

「そこのお前ら! ちょっと交番まで来てもらおうか!」
「・・・待ってくださいよ。俺達はちょっと声をかけただけで・・・」

 まだ裏路地の方にいる男達は、そそくさと逃げ出そうと振り向いた。

「な!」

 そこには制服警官が2人いた。一人は初老。もう一人は若いが、身長が180cmは超えているような体格だった。その節くれだった大きな手は、空手や柔道の有段者に見える。アヤカを囲んでいた男達は、いつの間にか警官に挟み撃ちにされていたのだった。

「よーし、そこまでだ。大人しくしとけよー。」

 若手の警官が威圧するように間合いを詰める。男達の方が人数は多いが、道は広くはなく、逃げ道は無かった。中年と若手の警官が男達を釘づけにしている間、初老の警官はアヤカのところまで来た。

「大丈夫かね?」
「はい、ありがとうございます。助かりました。」
「もうすぐ日が暮れる。ここはいいから早く帰りなさい。」
「はい。ありがとうございました。」

 アヤカの横には、いつの間にか委員長と双子がいた。

「ありがとうございました。」
「したー。」
「お巡りさん、ありがとねー。」
「ありがとうございました。」

 4人は初老の警官に礼を言うと、その場を立ち去った。警官がいたのは偶然ではない。委員長と双子が呼んできたのだ。アヤカと別れた3人は、そのまま交番まで行き、「友人が変な男に付きまとわれている」といってきてくれるように説得したのだ。アヤカはつけられているふりをしながら、交番に近い裏路地に男達を誘導したのだった。

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