妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


目次へ / 3−9へ / 3−11へ
3−10 級友と帰り道

 3時になり、買い物も一段落した4人は、お茶にすることにした。怒涛のように過ぎた2時間だったが、いろいろと買ったおかげでアヤカの財布はかなりピンチである。そしてここから寮に帰り着くまでが、別の意味でピンチだった。喫茶店ではもちろん、帰り道で10m進む毎に、アカヤは声をかけられる。大半はナンパで、ピンクと茶色、もしくはピンクと黒といった悪意を意味する粒子を放出しているものがほとんどだった。これには委員長が身を挺してカバーに入ってくれた。中には芸能事務所のスカウトマンという名刺を出してくる2枚目もいたのだが、ピンクと黒の粒子を放出しており、まともな誘いでないことは、アヤカには明白だった。しかし、スカウトと聞いて双子はふらふらとついていこうとする。アヤカと委員長は双子を引きずっていかなければならなかった。

『アヤカ、周囲を警戒しろ。』
「(どうしたの?)」

 緊張感漂うフォスの言葉に、アヤカはあらためて周囲を見回し、粒子を確認した。すると、赤と黒、茶と黒、赤と紫といった粒子を放っている者が多かった。その大半はアヤカ達を遠巻きに見ている感じだった。

「(・・・囲まれてる?)」
『ちょっと待ってろ。』

 フォスはアカヤの肩から飛び立った。そしてアヤカの頭上7〜8mぐらいの所で滞空する。フォスはアヤカより多くの粒子を見ることができる。その流れでじわじわと包囲網が狭まっていることに気付いた。

『アヤカ、奴らはなにか連絡しあっているようだ。”群れ”で囲む気だな。』
「(目標は、私達? それとも・・・私?)」
『アヤカの方が狙われていそうだな。』
「(どうしよう? 私だけならなんとかなる気がするけど・・・)」
『この前、教科書に書いてあった”警察権力”とか言うのは使えないのか?』
「(警察権力? ・・・ああ、交番のこと?)」

 アヤカは委員長と双子が防波堤になってくれている間に、作戦を立てることにした。できれば3人を巻き込まないようにしたいが、時計は4時を回ったところだった。ここは繁華街であり、人通りは多い。これから帰宅時間帯になるので、さらに多くなるはずだ。人込みを盾に移動することも考えたが、逃げ切れないだろうし、ついてこられて住居を特定されるのも困る。アヤカだけなら途中で姿を消すことも可能だが、そうすると残った3人が狙われることになりそうだ。となると・・・。

『おい、へんな笑い方してるぞ。邪悪なこと考えてるな。』

 フォスに言われてはっとなるアヤカ。考えていることが・・・いや、感情が読まれている。元々、粒子を読み取るのはフォスから教わったことだ。当然、フォスもできる。他人の粒子は見えていても、自分がどんな粒子を放出しているのか、今更ながらに意識していなかったことに気付いた。そして、考えてみれば、フォスからはほとんど粒子が出ているのを見たことが無い。これについては後で聞いてみようと、アヤカは思った。

「(うん、私、酷いこと考えてる。フォスは反対?)」
『いや別に。悪意や敵意を向けてくる相手にアヤカがどう対処しようが、俺は反対しない。この街には法と秩序があるかもしれないが、それよりも自然の摂理の方が上だ。弱肉強食は自然の摂理だからな。生物学的に強者であっても、手痛い反撃を受けることもあるだろうよ。』
「(・・・わかった。じゃあ、送り狼ならぬ、送られ狼ってことで。)」
『狼? 人間族は食ってもあまり美味いと思えないがな。』
「(そういう意味じゃないってば。)」

 フォスとの感性がずれていることについて、議論している余地はなさそうだった。ひとまず思いついた作戦で進めてみることにする。

「委員長、ちょっと。」
「なに?」

 アヤカは作戦について委員長に耳打ちした。囲まれてること、包囲が狭まっていること、狙いは私である可能性が高いこと。アヤカの緊張した雰囲気に、委員長はただならぬものを感じた。

「・・・わかった。こっちはまかせて。」

 流石に委員長は頭の回転が速かった。

「ねーねー、何こそこそ話てるのー?」
「? 白沢さん、どーしたのー?」

 人が増えだす夕方の繁華街。アヤカは建物の角を曲がったところで作戦スタートの指示を出した。

「ちょっと、二人ともついてきて。」

 委員長は双子の手をそれぞれ掴むと、すぐ近くの別の路地にひっぱっていく。アヤカは3人に手を振ると、別方向へ歩き出す。いつも図書館で周囲を無視して勉強している状況を思い出して平常心を取り戻すと、急ぎ足にならないように歩き出した。通り過ぎる男性の大半、そして女性の一部が、すれ違ったアヤカを振り返る。

「お、何あの娘、モデル?」
「今の娘、すごく綺麗じゃない?」
「ちょっと何見とれてんのよ?」
「あだだだ、耳、耳ひっぱらないでくれ。」

 アヤカの容姿に驚く人。アヤカに見とれた彼氏の耳を引っ張る女性。見惚れてしまう人もいる。そんな中、アヤカは悪意の粒子を振りまく集団が、距離を詰めてきているのを感じていた。ショーウィンドゥなどのガラスの反射で後方や周囲を確認し、相手の人数を把握してみる。こういう時は、周囲の人間に知覚されないフォスが大活躍だった。アヤカとは反対方向を見ることで全方位を警戒できる。時々、その悪意の粒子の集団の近くへ行って会話を盗み聞きする。それにより、相手の人数と行動が見えてきた。

『そろそろ仕掛けるのか?』
「(うん。)」

目次へ / 3−9へ / 3−11へ