妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


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3−8 級友と相談

 フォスがアヤカに課した訓練。それは「友人を作る」ことだった。もちろん言葉どおりではなく、友人を作りつつ、他人の頭部から放出される粒子の色を読み取って、相手の心の動きを読む練習をするのが本題だった。フォスに言わせると、これができることで、周囲の動きを察知したり、先に動いたり、後の先をとったりということができるようになるらしい。放課後は勉強に使うので、アヤカは昼食時に動くことにした。

「ここ空いてるかしら?」

 アヤカは学食でクラスの委員長を見つけると、そう声をかけた。基本的に他人とかかわりをもとうとしないアヤカについては、学食であっても基本一人だった。周囲もその雰囲気を察したのか、アヤカの周囲には絶対防衛圏のような空間がいつもあった。

「・・・どうぞ、いいわよ。」

 一瞬固まる委員長と、いっしょにいるクラスメイトの双子。だが、委員長はすぐに気を取り直して席を勧めた。

「どうしたの?」
「うん、よかったら委員長に相談に乗ってもらえたらと思って・・・」

 委員長の瞳がキラキラと輝きだした。アヤカには、委員長から黄色とオレンジの粒子が放射されているのが見えていた。

「いいよ、何でも聞いて。そういうの委員長の役割だと思ってるから!」

 待ってましたとばかり声が大きくなってしまう委員長。その周囲の生徒達は、何が起きるのか、こっそりと耳を立てていた。普段、他人とかかわりを持たないアヤカが、自分から積極的に話しかけてきた。その行動の変化に、周囲のほとんどの生徒が注目していた。

 委員長は前から孤立しているようなアヤカと、ちゃんと会話できる友達になりたいと思っていた。しかし、浮世離れした雰囲気のアヤカは、どうしても近寄りがたい雰囲気をまとっており、その一歩が踏み出せないでいた。それがアヤカの方から踏み出してくれたのだ。こんなにうれしいことはなかった。委員長は他人から頼られるのが大好きなのだった。

「実は・・・服を買いに行きたいんだけど、どいういう所がいいのか、よくわからなくて。よかったら教えてもらえないかしら。」

 委員長は心の中でガッツポーズをした。待ってましたというやつだ。これぞ私の出番だと。アヤカは委員長から放射される黄色とオレンジの粒子の量が増えたことに気付いた。フォスが言うには、好奇心、高揚感、使命感、歓喜といった感情が強くなっているということらしい。

 アヤカが持っている私服というと、孤児院でもらった大きめサイズのおさがりと、格安店で買ったジャージぐらいだった。そのあたりを説明してみると・・・

「わかった。じゃあ、いっしょに買いにいこうよ。」
「わたしも行っていい?」
「わたしも!」

 双子もぐいぐい来る。その二人も黄色とオレンジの粒子を飛ばしていた。

「それじゃ予定なんだけど、土曜か日曜の午後って空いてるかしら?」
「土曜か日曜の午後か・・・。そういえば白沢さんって、あのファミレスでバイトしてなかった?」
「ええ。でもずっと土日に入っているから、店長から週末の休みを勧められたの。」
「そうなんだ。」
「ねーねー、あのファミレスの制服、可愛いよねー。」
「そーそー。私も行ったよ。白沢さん、緑のやつ似合ってるよね。」

 そこからはファミレスの話で盛り上がった。気づくと昼休みは残り5分となっていた。

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