妖精竜の花嫁
〜Fairy dragon's bride〜


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3−4 追突と一瞬

 メニューのリニューアルに続いて、店員の制服変更。そのインパクトは凄まじい集客効果を生み出していた。ホール担当全員の制服が色違いということもあり、リピーターの中にはホール担当それぞれに固定ファンのようなものができていた。アヤカの抜けたキッチンには2名増員されてており、客の急増になんとか対応していた。客の増加は、土日が最も多く、今日はさらに行列ができていた。

「なあ、お前らどのウェイトレスさんがイチオシ?」
「やっぱ緑の子じゃね?」
「あー、わかるー。でも俺は紺のおねーさんだな。」
「なんだよ、お前、年上趣味だったのか。」
「いいじゃねぇかよ。」
「同じ年上なら青のおねーさんの方がよくね?」
「なあ、ピンクの子って、同じ大学だったと思うんだけど。」
「え、マジマジ?」

 そんな下世話な会話をしている大学生4人組の上に、フォスはいた。アヤカがホール担当になってから、フォスは居場所をホールの壁にある、絵や小物が飾られている段差の端に移動した。なんとなく嫌な予感がしたので、店内を監視できる位置と考えた結果の場所だった。


Side.フォス

 土曜の昼下がり。今日は昼に満席になった上に、外に行列ができていた。小学生未満の子供も多く、何人か走り回っている。特に手を出すつもりではないが、何か起きるような予感がしていた。
 アヤカが一番奥のテーブルから注文を受けて戻ろうとしていた時、ピンク色の制服のウェイトレスが料理を手に進んできていた。その間に割り込むように子供が飛び出し、ピンク色の制服のウェイトレスに衝突。トレイごと料理が宙を舞った。次の瞬間、疾風の様に間合いを詰めたアヤカが、落下する料理を右手で受け止め、倒れ込むピンク色の制服のウェイトレスを左手で止める。子供はピンク色の制服のウェイトレスのスカートにめり込むような位置におり、やんわりと受け止められている状態だった。

『ほう。』

フォスはにやりと笑った。


Side.アヤカ

 子供とピンクの制服の西山さんがぶつかると思ったので、すぐにフォローに入れるように動こうとした。次の瞬間、音が消え、周囲が灰色に見える。ゆっくりとスローモーションのように宙を舞うトレー。まずは右手を伸ばしてトレーを掴む。3cmほど下げてプレートの上のハンバーグを着地させると、さらにトレーを30度ほど回転させて、落ちてくるポテトサラダを元の位置に受け止める。左手で空中のグラスを掴む。円を描くようにその口を回しながら飛び出しているオレンジジュースを受け止め、表面張力ぎりぎりの速度でトレーに乗せる。倒れ込んでくる西山さんを左腕で受け止めつつ、西山さんの下敷きになりかけている子供の背中に膝を当てて、西山さんと膝で子供をサンドイッチする状態に固定する。落下速度吸収のためにトレーを5cmほど下げたところで、周囲の色が戻った。

「おぉ!!」
「すごい!」
「早業?!」

 周囲から驚嘆の声と、遅れて拍手が巻き起こる。

「大丈夫ですか?」
「あ、ありがと。」

 西山さんにトレーを渡すと、当事者である子供に向きなおる。

「店内では走らないでね。」
「・・・はぁい。」

 怒られると思っていた子供は、ほっとした表情で席に戻っていった。

「(フォス、今のって何?)」
『ん? ああ、”加速”だな。超高速で走れたことによる次の段階ってやつだ。』
「(私、こんな事できたんだ。)」
『あんまり使うなよ。慣れない内は異常な疲労感が来るからな。』
「(うん、わかった。)」

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