3−1 進学とバイト 中学生としての余剰時間を全て勉強につぎ込むことでトップクラスの成績を維持したアヤカは、無事に望む高校に奨学生として入学することができた。いずれ孤児院を出ないといけないアヤカは、中学2年の段階から寮が完備されている高校に進学することを考えていた。寮に入るなら孤児院から離れていても問題ない。中学校から推薦を受けられる高校の中で、一番良い寮があり、なおかつ個室である所。それがアヤカの高校選定の第一基準だった。普通、寮は最低でも2人部屋だが、成績優秀者だけは個室が与えられるというところが1つだけあったのだ。奨学生による学費免除は第二基準だった。実際のところ、その家庭環境のために自治体からの補助金があり、奨学生による学費免除と寮での生活を組み合わせることで、ほとんど生活費がかからない学生生活を送れる環境を整えることに成功した。 とはいえ、小遣いもないのではさすがに苦しい。アヤカは入学早々、学校が推奨するバイト先を探した。この学校の卒業生が経営している会社が、近くにいくつもあり、そこが高校生アルバイターの受け入れ先になっていた。それらの会社の中には、卒業と同時にバイトを正社員に格上げしてくれるところもあるのだった。アヤカは学校からもらってきたバイトの冊子を眺めていた。 『バイトするのか?』 「(うん。やっぱり多少は小遣いがないと、ノートとかいろいろ買う余裕がないし。)」 フォスは机の端に降り立つと、興味なさげに丸くなって目を閉じた。 「(ねぇ、どこがいいと思う?)」 『俺に聞かれてもな。労働内容と賃金で決めるのがセオリーじゃないのか?』 「(まあ、そうなんだけど・・・)」 アヤカは考えた結果、ファミレスのバイトにすることにした。場所も寮から近い。学校に申請を出すと1週間後にOKが出た。その日の放課後に面接ということになる。そのファミレスの店長は女性で、アヤカの通う高校の卒業生ということらしかった。 「えっと、名前は・・・白沢 彩華さん。」 「はい。」 「希望は『キッチン』で・・・土日の平日勤務っと。」 「はい。」 「自宅の住所が学校の寮になってるけど・・・これは?」 アヤカは親が早くに亡くなって、身寄りが無いため、奨学生で入学したことを説明した。 「あなたぐらいなら『ホール』に出てほしいけど・・・『キッチン』を希望の理由を聞いても?」 「はい、将来のことを考えて料理の勉強になればと考えました。」 「そう。土日だと・・・勤務時間長いけど、大丈夫?」 「はい、大丈夫です。逆に平日は勉強に集中したいので。」 「じゃ採用ってことで・・・今日は仕事着のサイズだけ合わせてくれる?」 「はい、よろしくお願いします。」 |