2−4 黄金と変化 『周りのみんなに力を貸してもらうことにした。』 「(周りのみんなって・・・植物とか?)」 『そうだ。』 アヤカは周囲を見回した。植物園の中はとりたて変化したようには見えない。もし力が奪われているのなら、植物が枯れたりするのではないかと想像したが、そんな兆候はどこにも見当たらなかった。 「(なんか凄い力の流れがあったと思うんだけど。その力を貸してくれている植物は枯れたりしないの?)」 『それはない。まあ、人間族にはわからないと思うが、植物や大地ってのは、もともと膨大な生命力を持っている。俺はその余剰に放出されている力を集めただけだ。植物や大地の力を奪ってるわけじゃない。』 アヤカはその説明にほっとした。 『さあ、飲んでみてくれ。今までとは違ってかなりの力を込めてある。おそらく胸の病魔は駆逐できるはずだ。それに・・・』 「(それに?)」 『まだ予想の域を出ないんだが、これを飲むことで、アヤカの体には劇的な変化が起きると考えている。』 「(劇的な変化? どんな?)」 『たぶん、人間の枠を外れた身体能力と知覚力を持つことになる。知覚力については俺が見えている時点で既に人間離れといっていいんだがな。まあ、いきなりじゃなく、力の低いものは今まで何度も飲んできているんだ。体は十分耐えられるはずだ。』 「(・・・初めて会った時、私に力を貸してって言ってたよね。今までフォスに力を借りっぱなしで、ほとんど返せてないと思ってる。これを飲んだら、私、ちゃんとフォスに力を貸せるようになるのかな?)」 『・・・そうだな。その第一歩ってところだろう。』 「(うん。)」 アヤカは今まで一番強い輝きを放つ竜の雫を飲み込んだ。全身に力がみなぎって来て、黄金の粒子がアヤカを包む。そして劇的な変化は、知覚力からやってきた。周囲が今まで以上に鮮やかに見える。数百m向こうを跳ぶ鳥の羽根の色や模様まではっきり見える。ムラのある緑にしか見えない木々は、その葉っぱの1枚1枚の形や揺れ方まで知覚できていた。周囲の音が突然、大きく聞こえ出す。雑踏で聞こえないはずの足音、ビルの向こうにある駅のアナウンス、携帯電話で会話している内容まで正確に聞き取れる。フォスからは日に当たっている草のような匂いが感じられた。人の体臭や、化粧の濃い女性の匂いがどこまで広がっているのかがわかる。足元から振動が伝わってくる。その振動を追っていくと、植物園の建物が風を受けている振動だった。目を閉じれば、離れている人の足運びが、振動として感知できた。強化された知覚力で膨大な量の情報を得ているが、不思議と混乱はなかった。よく見え、よく聞こえ、よく嗅げるといっても、ひどく眩しいわけでも、音がうるさいわけでも、匂いがキツイわけでもない。より正確に、より広範囲に知覚できるようになったということのようだった。 アヤカはゆっくりと深呼吸する。胸の奥にあった引っかかりのようなものは感じられない。一呼吸毎に力があふれ出してくるようだった。いつもなら1分もしない内に消える黄金の粒子は、まだアヤカの体から放出されていた。力が有り余っている感じがする。アヤカは体を動かしてみたい気分になった。 |