2−2 手と尻尾 Side.アヤカ 初めて見た時、フォスの姿は綺麗だと思った。大きな蝶の羽根。蛇のような細長い体を覆う鱗はエメラルドグリーンで、同色の瞳は宝石のように見えた。手足はあるが、私の肩などに着地する以外に使われるところを見たことが無い。逆にその長い尻尾は多才だった。竜の雫を渡してくれた時もそうだったが、本のページをめくったり、鉛筆を持って字を書いたりもできる。私の肩に留まっている時は、その尻尾は反対の肩に回されてフォスの体が落ちないように支えていた。 幼くして親を亡くした私は、何より寝る時が寂しかった。人の温もりの無い冬の布団は冷え切っており、寒さが孤独感と焦燥感を煽っていた。そんな時だった。 『俺が側にいるから心配するな。』 フォスはそう言って尻尾を私の手に巻きつけた。これはフォスなりに手を握ってくれているのだとわかった。それ以来、私はフォスの尻尾を握ることで安心して眠れるようになった。 「・・・」 顔に当たる日差しで目が覚める。差し込む赤い光は夕日であることを物語っていた。手にはフォスの尻尾が一巻きされており、私はそれを無意識に握っていたみたいだ。呼吸すると胸の中が引っかかるような感じがする。 『よし、決めた。』 フォスはじっと窓から差し込む日差しを見ていたが、決心したようにそう言うと、顔を私の方に向けた。 『連れていって欲しいところがある。』 |