2−1 成長と進化 アヤカの胸に巣くっていた病魔は消えたわけではなかった。実際のところ、中学生になるまでに何度か肺炎が再発していた。その都度、フォスは竜の雫をアヤカに与えた。竜の雫は身体強化を行うだけで、病気を駆逐するものではない。一時的に病魔が抑え込まれているに過ぎなかった。そのため、フォスは半年に1回の割合で竜の雫を渡していた。その成果は、体育の授業の際に明らかになる。 「え?」 「早!!」 「嘘でしょ?」 「先生、白沢さんのタイムは?」 「・・・6秒・・・3!!」 アヤカが50mを走った後、グランドは騒然となった。 「すごい!」 「白沢さん、陸上やってたの?」 素直な感動半分、嫉妬半分で、アヤカに詰め寄るクラスメイト達。 「(わたし、こんなに速く走れたっけ?)」 『前に説明したのを覚えてるか? 俺がやっている竜の雫は、基本的に身体強化を促すものだって。』 「(それはそうだけど・・・病気が治るものだって思ってたから)」 『本人の適正にもよるだろうが、アヤカの場合は、病気の治癒に加えて身体能力の向上の効果も発揮できているようだな。』 「(あんまり全力出したつもりはないんだけどな。本気出せばもっと速く走れるってこと?)」 『まあ、そうだが・・・周りがうるさいな。』 「ねぇ白沢さん、陸上部に入ってよ。」 周囲が騒がしい中、フォスはアヤカの胸に急速に広がる紫の粒子を見た。 『おい、アヤカ!』 「ごほ、ごほ、ごほ!」 酷く咳き込み、アヤカは座り込んだ。それまでとは別の意味で周囲が騒然となる。咳き込むのが止まらない。教師と生徒数名でアヤカは保健室に送られた。フォスはすぐに竜の雫を飲ませてやりたかったが、あれは周囲には秘密だ。なにより自分の存在がバレかねない。 フォスの見立てでは、何度かの竜の雫の投与により、アヤカの身体能力は年齢不相応に上昇していた。やろうと思えばプロアスリート並の動きができるだろう。だが、根本的に体を鍛えていないアヤカにとっては、スタミナが無さすぎる。加えて胸に潜む病魔は駆逐されていない。フォスは次に打てる手を思案した。 |