エピローグ〜妖精竜の花嫁〜 溶岩の魔神を倒した後、アヤカは具象界から妖精界に引っ越すことにした。超加速を使用したことによる体への反動はあまりなかったのだが、唯一、瞳だけは影響が残った。アヤカの瞳の虹彩は金色になっており、瞳孔は蛇のような縦長の形になっていた。この瞳孔の形状は、フォスのそれと同じであった。フォスから長年にわたって与えられた竜の雫は、アヤカの身体を強化すると同時に、その体組成を妖精竜に近いものに変化させていたのだ。 アヤカの瞳孔と虹彩の色は、1週間ほどで元に戻った。だが、変化はもう1つあった。アヤカは、あの決戦以後、人間としての食事ができなくなっていた。食べようとしても、体が受け付けないのだった。だから、フォスと同じように、大地と植物が放出する粒子を吸収することにした。瞳と食事についての異常。この2つがアヤカを妖精界への引越を決意させた。 大学には卒業までは通うことにした。毎回、フォスに次元の門を開いてもらって通学する。ファミレスのバイトは、店長と従業員全員から引き留められたが、体調を崩したと言い訳をし、辞めることにした。ただ、完全に縁が切れたわけではないので、体調が戻ったら、時々、遊びにくるということで勘弁してもらった。 妖精界に引っ越したアヤカとフォスは、アヤカの希望で旅をすることにした。まずは妖精王国の周辺を散策。そしてフォスが次元の門を開くことで、他の妖精界や魔界を訪れる。時々日本に戻り、ファミレスに顔をだしたり、パワースポット巡りをして過ごした。 『なあ、アヤカ。』 「(何?)」 『人間族は、番になる時、指輪を交わす風習があるらしいな。』 「(番? ・・・ああ、結婚するってことね。それがどうかしたの?)」 フォスが尻尾を突き出す。その先端には銀色の指輪が2つあった。1つは人間の指が通る大きさ。もう1つは直径がその半分ほどの小さなものだった。よく見るとそれは金属というよりも、銀の繊維で編みこんだものの様だった。 「(これは?)」 『”銀の茨”という植物の葉の繊維で編んだ指輪だ。妖精に頼んで作ってもらった。』 「(えーっと・・・)」 『フェアリードラゴンには、番になるという風習は無い。でもな、俺はアヤカにずっと側にいてほしいんだ。』 「(・・・そっか。私も同じ気持ちだよ。)」 アヤカは頬をピンクに染めながらフォスを見つめた。フォスが大きな方の指輪を、尻尾で器用にアヤカの左手の薬指にはめる。アヤカは小さい指輪を、フォスの左の腕に着けた。フォスにとっては指輪というより大きさ的に腕輪だった。だが、それは重要なことではない。 アヤカとフォスは、お互いの額を突き合わせ、手と尻尾を握り、お互いの永遠を誓い合った。 Fin |